イルカの飼育

イルカの飼育という仕事は
意外と楽しいものでありいろいろな発見がある

イルカは昼間プールの中で客達である
子供達や大人達と一緒に泳ぎ
客達は満足した表情で夕刻には家へと帰っていく
一方イルカの方は
無邪気な顔をして私から餌を受け取り眠りにつく

こんな単調な毎日が続く訳だが
イルカを見ていると
イルカ達は人間の心が読めるのではないかと思うことがある

実際夜中にも
イルカに会いにやってくる人間達がいる訳であり
プールの柵をのりこえてまでイルカと遊びたがる子供達がやってくると
その足音を聞いただけでイルカ達は目を覚まし
はしゃぎはじめるのだが
イルカ泥棒などがやってきたりすると
私が気付いてサイレンを鳴らす前に
イルカ達は興奮して飛び跳ねはじめるのだ

おそらく四六時中私と過ごしているイルカ達は
私の心のほとんどを読んでしまっているのだろう

イルカ達はきっと私が
彼らと一緒になって泳ぎたいと思っていないことを知っているだろう
そして同時に
私が彼らに敵意も悪意も持っていないことを知っているだろう

私とイルカ達だけがいて
私が本を読んでいたり黙然としたりしていても
イルカ達は何の反応も示さずにゆっくりと泳いだりして
はしゃぎだすことは一度もない

だがそんなイルカ達も私に無関心を装いながらも
わずかながらの反応を示すことがある

私が石になったつもりでぼうっとしていると
イルカ達はその動きを一斉に止めて
じっとしているのだ